事故調査を通じて従業員を守る

事故調査は、リスクに基づくオペレーション管理の仕組みの中で重要な要素の一つです。事故の報告と調査を通じて、自社のマネジメントシステム (例：オペレーション、資産健全性、リーダーシップ、企業文化、人材・ 能力）を見直し、リスクや脆弱性の要因を特定します。 リスクを認識し対処することで、事故の発生を未然に防ぐため、有効な対策を講じることができます。特にプロセス事故はその特性上、従業員や設備に対して甚大な影響を及ぼす可能性があるため、効果的なリスク管理が不可欠です。

継続的な改善を推進する上で、事故調査は有効な手段ですが、文化的な課題への対応が不可欠です。事故の報告や調査を積極的に奨励する企業文化を築くことで、従業員が危険から自身や組織を守ることが可能となります。その結果として、より安全な職場環境が実現され、尊い命を守ることにもつながります。

国際労働機関（ILO）によると、世界で毎年200万件以上の労働災害による死亡事故が発生しています。事故調査を通じて得た学びは、特に高リスク産業において、同様の事故再発を防ぐための効果的な手段となります。

事故調査とは？

事故調査とは、「問題の根本原因を特定し、 パフォーマンス向上のための解決策を提言する体系的なプロセス」と定義されています¹。この プロセスは通常、上層部に支援され、任命された事故調査リーダーが、分野横断型のチームと協力して調査を実施します。ただし、すべての調査にチームが必要なわけではなく、その必要性の基準はリスクの大きさに基づいて決定されるべきです。

事故とは、直接的にけがや疾病、資産の損害、 環境への有害な影響、公共への悪影響、または 事業の中断を引き起こす、または引き起こす可能性のある出来事と定義されます。事故は、目に見える損失に加えて、組織の公的なイメージに対して、深刻で長期的な影響を及ぼすこともあります。

事故を調査する理由として、以下が挙げられます。

• 根本原因を特定し、同様の事故を防ぐため
• 事故のコストを算定するため
• 法的要件を満たすため
• 是正措置を実施するため
• 労働者の補償請求を処理するため

高リスクのニアミスとは、偶然や状況によって重大な負傷や死亡 (SIF: Serious Injury and Fatality）には至らなかったものの、その可能性があった計画外の出来事または一連の出来事 を指します。高リスクのニアミスは、正式な調査のきっかけとなることもあります。

事故調査の実施は間違いなく重要ですが、事故の報告と調査プロセスを妨げる、二つの主な要因があります。一つ目は現場に関連する要因、 二つ目はリーダーシップに関連する要因です。

1. 現場のジレンマ
   一 般的に、現場の従業員は、事故が発生した場合に最も大きな危険にさらされる可能性があります。しかし、彼らが事故報告を上げることをためらう理由は多岐にわたります。例えば、以下が挙げられます。
   • 自分の作業エリアで事故を報告したことによる、直属上司からの報復の懸念
   • 事故に対する自分の関与の恥ずかしさ
   • 懲戒処分、報酬の減額、または解雇の恐れ
   • 年次評価に与える影響
   • 事故調査プロセスへの信頼の欠如
2. 調査と報告の文化の構築
   事故の報告と調査に関する組織文化に、リーダーは良くも悪くも影響を与える可能性があります。未成熟な安全文化の中では、リーダーが安全記録を傷つけたくない、無事故表彰をされたい、あるいは他のリーダーの前で悪い印象を与えたくないために、事故報告を避けようとする場合があります。安全を他の要素より優先しないリーダーは、組織全体にわたり、事故の認識を避ける文化を生み出します。一方で、品質、安全、従業員の懸念について常に質問するリーダーは、これらが重要であるというメッセージを発信することになります。逆に、安全を重要な価値と信じず、収益と利益のみを重視するリーダーは、透明性や学びを重視しない、近道を取る文化を作り出します。