企業のグローバル展開を支える強固な 安全・リスク管理体制
アジア企業によるグローバル展開は加速しており、自国にとどまらず世界各地へ事業基盤を拡大する動きが目立っています。新拠点の設立や既存企業の買収を通じて成長を追求する一方、慣れない法域における安全・リスク管理への理解不足から、高いコストを伴う失敗を招く事例も散見されます。
新たな買収、特に外国企業を対象とする多くの場合、安全基準や法的要件に関する知識が不足しがちです。現行の事業運営を維持しながら、限られた社内リソースで国際展開の監督を担うのは容易ではありません。国ごとに、業績評価の基準や比較の枠組み、人材育成の方法、事業統合の進め方が共通化されていないため、体系的なマネジメントが難しいのです。更に、言語や文化の違いも加わり、その複雑性は一層高まります。
本稿では、これまで多数のグローバル企業へ安全・リスクに関するサポートをしてきた豊富な経験を踏まえ、国や事業の枠を超えて企業が安全文化を根付かせるための指針を示します。また本稿は、労働衛生や環境分野については直接的に取り上げてはいませんが、同様のプロセスを適用することが可能です。
買収前のデューデリジェンス
買収はさまざまな形で進行しますが、安全システムに関するデューデリジェンスは後回しにされがちです。一般的に財務・法務・物流のデューデリジェンスが優先されることが多く、近年ではESGへの注目を背景にサステナビリティの観点も重視されつつありますが、品質・安全・開発部門の関与は依然として遅れがちです。
例えば、買い手が買収候補を極秘に進めたい場合、製造部門が一切関与しないことがあります。こうしたケースは、製品がどこでどのように作られているかよりもブランド価値に重きがおかれる消費財業界でよく見られます。しかし、万が一の事故や不祥事発生後に評判の失墜や事業の中断につながるリスクを考えれば、このような進め方は見直す必要があります。
安全とリスクに関するデューデリジェンスに十分な時間とリソースを割ける場合、工場設備の状態、パフォーマンス指標、現行の運用基準、さらには安全風土や組織文化について、詳細な調査を行うべきです。工場を法規制や業界基準に照らして改善する必要がある場合、そのコストに加え、過去の事故対応、罰金、進行中の安全関連訴訟といった要素が、買収時の企業価値算定に直接的な影響をもたらします。